近畿大学特別講義「建築の持つパワー」! (終了後「近大マグロ」に舌鼓)


 7月18日、近畿大学東大阪キャンパスで、建築学部特別講義を行いました。
 「建築の持つパワー~中越地震、アオーレ長岡の実例から~」と題し、建築を学ぶ若者に建築の魅力を感じ取ってもらいたいという気持ちを込め3時間の全力投球。行政における建築の果たす重要な役割について話しました。
 講義は公開で行われ、近畿圏の自治体職員、ゼネコンやハウスメーカーの社員なども参加してくれました。

 講義は前半と後半の二部構成。
 第一部では、新潟県中越地震の際の「建築の持つパワー」について講義。地域コミュニティに焦点を当てた仮設住宅の計画や、徹底的な協議を重ねて成功した集団移転についてお話しました。
 第二部では、「アオーレ長岡」の建築設計コンペティションの際に長岡市が明確な建築計画を提示したこと、設計者隈研吾さんがその計画を設計に結び付けていく過程での長岡市との真剣な協議等について解説しました。また、アオーレ長岡の使われ方、特に、「高校対抗ラーメン選手権」等の市民が企画した各種イベントや「保育園児の遠足」等の自然発生した利用が何故なされたかについて講義をしました。

 隈研吾さんが、丸善出版(株)「アオーレで会おうれ。-長岡市の挑戦-」に寄稿された前書きが、今回の講義のエッセンスを明確に表現して下さっているので、少々長いのですが次に掲載します。

 アオーレ長岡を設計し始めた時、森市長をはじめとする市のみなさんからの要望が、とても「計画系」的であることに驚いた。「計画系」的といっても、建築の専門教育を受けていない人は、なんのことだかわからないだろうから、まず解説する。大学の建築教育は、大きくデザイン系教育と、 エンジニア系教育とに分かれる。エンジニア系の中に、耐震設計などの構造と、空調、給排水、風、光などの環境系がある。デザイン系には、いわゆるデザインを扱う意匠系と、建築史を扱う歴史系と、もうひとつ「計画系」というあまり聞き慣れない分野が存在する。
 一言でいうと、「計画系」というのは建物がどう使われるかという、ソフトを研究する分野である。 家が実際にどう使われているか、例えば人は実際 にどこで寝て、どこで食べて、どこで親子の会話をするのか、そういったことを、しつこく念入りに調査するのが「計画系」なのである。世界中の建築学科と比較しても、不思議なことに、日本以外ではこの分野の研究は盛んではない。わかりやすくいえば、いきなり形をデザインしてしまうというのが、世界の建築のスタンダードなのである。 ところが日本は違う。人間の生活、ふるまいといったものを調べまくり、つきつめて、そこから形に進むというのが日本流なのである。
これはとても重要な日本的伝統ではないかと僕は思っている。なぜなら建築で一番大事なのは、結果としての形ではなく、そこで何が起きるか、どんなふるまいが行われるかである。これからの 時代、いよいよこの「計画系」、ソフト系の視点が重要になっていくだろう。
長岡の森市長が、この「計画系を学んだ」ということが、このアオーレにとって、とても大きな役割を果たしたと僕は思っている。アオーレはとても「計画系」的な発想でつくられた建物だからである。一番いい例がナカドマである。ナカドマは、アオーレの目玉である、市民のための屋根付き広場である。森市長以下、長岡市のみなさんから、ナカドマの使い方について、さまざまな注文がきた。市長たちが、いかにナカドマを重視していたかがわかる。しかもおもしろいのは、ナカドマをこんな形にしてくれとか、こんな材料で作ってくれとか、こんな家具を置いてほしいとかいう、いわゆる普通の「意匠系」注文がほとんどこなかったことである。
 設計をやっていて、こんなことはめったにない。注文はストレートに、具体的にやってくるのがほとんどである。この空間は豪華に石貼りにしたいとか、石でも明るい色の石がいいとか、ガラ ス貼りで透明にしてほしいとか、建築における注文というのは、普通こういうハードから直接入ってくるのである。「エライ人」になるほど、ストレートに、意匠系的に注文が降ってくる。 ところが森市長たちの注文は全然違う形だった。全く「計画系」で、すべてソフトから入って くるのである。ナカドマで結婚式ができないか、とか、地場の野菜の朝市ができないか、という感じである。この注文のされ方をされると、実はすごいプレッシャーを感じるのである。白い大理石を使ってくれと言われたら、ただそうすればいい だけで、その石がしっくりこようとこまいと、責任は向こう側にある。逆に「こんなふうに使えないか」と言われると、 生き生きと、楽しく使われる空間になるかどうかの責任は、すべてこちら側にある。ソフトが活きるように、素材選びからディテールの決定まで、ピリピリ、ハラハラの連続である。出来上がって、 その場にみんなが入るまで、その顔色を見るまで、胃が痛み続ける。「計画系」のやり口ほどこわいものはないのである。
 なかでも忘れられないのは、「ナカドマには、 市民の活動の邪魔になるから、木は植えないでほしい。植えるなら、移動式の木にしてくれ」と市長から言われたことである。普通はこんな注文はこない。緑を植えて、環境にやさしいイメージを演出してくれというのが、普通の市長である。
 この注文を受けたとき、この人は、自分の市長としての生命を掛けているのではないかと感じ、 鳥肌が立つ思いだった。この屋根付き広場を、本当の意味での「市民の広場」とすることに、いままで日本になかった種類の公共空間をつくること に、人生を掛けていると感じた。並々ならぬ強い気合を感じた。
 その気合、殺気を受けて、こちらも人生を掛けてナカドマをデザインしようと思った。床や壁の材料の選択にも、ディテールの決定にも気合でのぞんだ。結果として、ナカドマは、長岡市民にとても気に入っていただいたようである。市長とわれわれの気合が市民にも通じたに違いない。やっと安心して眠れるようになった。

 講義終了後、同キャンバス内の教職員用レストランで、懇親会を開催してくださいました。
 参加者は、向かって右から、安藤尚一、鈴木毅、木村文雄の各教授、向かって左から、国土交通省の後輩で現在大林組の林隆弘さん、私、浮谷高司・近畿地方整備局住宅調整官です。
 

 写真が、今話題の近大マグロのお刺身です。珍しいものを、わざわざ用意してくれました。感謝!
 3時間という長い講義の疲れも吹っ飛ぶ、美味しいマグロでしたよ。
 近代の皆さん、素晴らしいキャンバスで幸せですね。